ドブ色の街角にうさぎのアップリケ〜ストーリー3:ラクダ探偵事務所 

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こちらラクダ探偵事務所。
鼻垂れ横町の外れにある雑居ビルの3階だ。
探偵は私一人だが、心配は要らない。
そこらへんの新米探偵の3人や4人分(3ラクダや4ラクダ分)の働きは十分にするし、報酬は他所よりずっと安い。
昔は他の事務所で雇われ探偵をしていたが、馬鹿らしくなって自分で仕事を見つけることにした。
事務所の中ではダントツの事件解決率だったが、俺がラクダだからって、随分と酷い仕打ちを受けたもんだ。
ラクダが探偵をしてるって事がばれたら大変だから、捜査時以外は外出を控えろだとか、
わざわざラクダ専用のトイレを作るわけにはいかないから、草原に行って糞をしてくれだとか…。
あげく、「ラクダのくせに、着メロ、YMOかよ〜!え〜、ちょっと仕事ができるからっていい気になって
るんじゃねーよ!」などと罵られる始末。
大体、私の着メロはYMOでもなければ、プラスティックスでもなく、『ひょっこりひょうたん島のテーマ』なのにである。
一体、どこをどう聞いたらYMOだと思うのだろうか?
まあ、着メロの件は置いておくとしても、嫌気がさした私は、僅かな貯金と少しばかりの勇気で自分の事務所を作ったのだ。
人生(ラクダ生)には、然るべきタイミングで適切な変化を強いられる時もある。


自分の事務所を作るにあたって私がしなければいけない事と言えば、事務所を借りて電話を引き、今までの顧客に新装開店の連絡を入れる事ぐらいであった。
あとは、コーヒーを飲みながらTVを見ていればいいのだ。
私の探偵としての腕前を知っているこの町の人々は、誰に頼めば揉め事が解決するか分かっている。
始めて1ヶ月もすればTVを見ている暇が無くなり、3ヶ月目で前の探偵事務所は潰れた。


「ジリリリリ〜ン、ジジジ、リリリリ〜ン、リ〜〜ン、リンデリ〜ン(電話の音) 」
「電話だっ!」
そのとき私は『ごきげんよう』と『新・天までとどけ5』をザッピングしながらチキンラーメンを食べていた。
前の項ではTVを見ている暇も無いと少しカッコつけさせてもらったが、実際の所、3ヶ月目で潰れそうなのはラクダ探偵事務所であった!
「さーてそろそろ『牡丹と薔薇』だな、大河内奈々子ちゃんはキャワイイなー」と思っている時に、誰かが私を呼んでいたのだった。


「はいー、こちらラクダ探偵事務所。私が名探偵ともっぱら噂のラクダでございます」
「あ、どうも。あのー、なんでも相談に乗るっていうビラをみたんですが…」
「はい、どうぞー!なーんでも」
「えーと、HIPHOUSEについて教えて欲しいんですけど…」
「はーい、お安い御用です! HIPHOUSEっていうのは、文字通り、HIPHOPとHOUSEが合体したもので、80年代末に流行った音楽だねー。分かりやすくいうとHOUSEビートの上にRAPが乗ったものだねー。えーと、大まかにはHIPHOPサイドからのアプローチと、HOUSEサイドからのアプローチがあって、えーと、この場合のHOUSEはパラダイスガラージとかの流れじゃなくて、シカゴのHOUSEなんだよね。
それでまずHIPHOPサイドからのアプローチを解説するね。
当時は今ほど細分化されてなかったというか、HIPHOPとHOUSEがそこまで遠いものじゃなかったっていうか、お友達感覚があったんだよねー。MARLEY MARLって いるでしょ?
そう、あのJUICE CREWの人。BIZ MARKIEとかのプロデュースしてた人ね。あの人とか45 KINGとかも一時期HOUSEをやってたんだよー。と、いうかお決まりみたい感じで当時のアルバムは、1曲HIPHOUSEやったりしてたんだよね。DE LA SOULとかJUNGLE BROTHERS、EPMDにJVC FORCE。オリジナルアルバムではやってない人でも12インチのREMIXとか、とくにUK盤なんかには必ず入ってたんだよね。そう、あのATCQとかだってやってたんだぜ。
まあ一世を風靡したって感じ?特にHITしたのでいうと、やっぱり、JUNGLE BROTHERSの『I'll House You』だね。この曲の音を作っているのがTODD TERRYって人で、その人がROYAL HOUSE名義で出したアルバムに『CAN YOU PARTY』って曲があって、同じレーベルだったジャンブラが、おー!それクールじゃねーか!RAPさせて くれよって事で、RAP入れたのが『I'll House You』!イエー!伝説の始まりさっ!
そんでこのTODD TERRYって人がHIPHOPとHOUSEを行き来してた ような人で、ブレイクビーツのMEGAMIXものとかHOUSEビートの曲でもJBのサンプリングが入ってたり、この時代のHIPHOP〜HOUSE友達感の象徴のような人なんだよね。
じゃあ、今度はHOUSEからのアプローチの方に行くね。さっきも言ったようにシカゴハウスね。
まず、なんといってもTYREEね。はい、ここメモね。いい、一回しか言わないよー。
ジャンブラとかのHIPHOUSEはやっぱりダンスミュージックとしての強度は低かったんだけど、TYREEはもう凄いのよ。
TR909っていう太い音の出るリズムマシーンが あるんだけど、それで作ったファンキーで下世話なリズムと、歯切れの良いRAPで、UKのダンスチャートをも賑わせたんだよね。土方のおっさんとかってさあ、なんかごっつい指してんじゃん、ビニ本って感じの。あんな音。そんでこのTYREEがリリースしていた『DJ International』って レーベルがHIPHOUSE界のモータウンね。老舗。ユノウ?分かる?もう一人シカゴHIPHOUSEで忘れちゃいけないのが、MR.LEE。 この人はTYREEの下半身にビンビンくるような・・・、あっ、下品な言い方御免ねー。
下半身にムズムズ来るって言えば分かるかな?そういうのと違ってなんかもっと気障な色男っていうか、軟派なお水感があるんだよね。夜景の綺麗なホテルでワインって感じ?シルクっていうかさ。
メジャーで出したアルバムは、北米でかなりのセールスを記録したんだよ。北米っていう地元密着感がいいよね。
後にはバックストリート・ボーイズのプロデュースとかもしてるんだぜ。
えーと、駆け足で説明してきたけど、大丈夫?着いてきてねー!遅いぞ、追いついて来い!なんつって。ははは。
じゃあ今まではNYのHIPHOPの人とかシカゴのハウスの人だったけど、今度はアメリカから飛び出してUKの話に行くね。
UKはねー、M/A/R/R/Sの『PUMP UP THE VOLUME』っていう、RAPは入ってないけど、HOUSEビートにHIPHOP的サンプリング使いっていう、HIPHOP〜HOUSEお友達感満載の
曲を生んだ国だからねー。あれ87年だからね、そうとう早いわけよ。そんなわけでHIPHOUSEしちゃった人も一杯居るんだけど、とりあえずはSIMON HARRISね。
はい、出ました、ここもメモで。この人は後にマリオラップとか作る人なんだけど、自身のLIVING BEATってレーベルから、沢山HIPHOUSE出したのよ。
そうそう、PUBLIC ENEMYの『BASS』ってのサンプリングしてハウスにしたのもこの人ね。
まあ正直UKのHIPHOUSEはRAPがしょぼいのも多くて、HIPHOP〜HOUSEフレンドシップ の中でもインスト作っている人の方が出来が良かったりして、それはBOMB THE BASSとかRENEGADE SOUNDWAVEとかなんだけど、まあそれはHIPHOUSEから 少しずれちゃうから置いておくね。
えーと、大まかにはそんな感じかなー、なんか抜けてるのもあるかもしてないけど、このごろはDJ SPINAとかもHIPHOUSEのMIXCD出したみたい だし、ちょっとずつ勉強してこうよ。
ねっ。あ、それで、HIPHOUSEのその後なんだけど、全盛期は80年代末から90年〜91年くらいかなー。
90年代前半になるとHIPHOP〜HOUSEのお友達感も薄れてきたり、HIPHOPも徐々にギャングスターが主流になってきてメロウなのとかジャジーなのが台頭してきてHIPHOUSEは廃れちゃうんだよね。
RAPもオフビートで詰め込んでRAPするようになって、どんどんテンポも遅くなっていってね。
UKの人たちも徐々にレイブとかテクノとか違う方に行っちゃってさー。
あ、TYREE? TYREEは分かんない。いろいろ忙しくなったんだよね、多分。
こんなんで、分かったかなー?」


思わぬ長電話になってしまい、『牡丹と薔薇』を見逃してしまった。
つまらないTVコメンテーターが、芸能人の誰と誰がどうかしたとかつまらないことをぬかしてやがるぜ。
チャンネルを回すと、高校野球。
高校時代の俺といえば、サッカーの事で頭が一杯だった。
ラクダだったため、プロにはなれなかったが、天才プレイヤーとして名を馳せたものだ。


タバコを取り出し火をつける。
机の上には請求書の束。
こんなはずじゃなかった。
高校生の俺が今の俺を見たらなんていうだろう?


ふと、窓の外に目をやると、バナナの形の雲があった。
食べたいなと思った。




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2004年初頭あたりに「flicker」というフリーペーパーに書いたもの。

[2006/07/05 16:52] COLUMN | TB(0) | CM(0)

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